2023/5/27 | 日テレ24に取材協力しました!
「児童手当拡充の一方、扶養控除廃止の可能性も。年収いくらだと実質マイナスになるのか?」
というテーマで試算してみました。計算の恣意性をまったく排除するために、サラリーマン1馬力の世帯で、給与所得控除、基礎控除及び配偶者控除だけで試算してます。
ブレイクイーブン(手当をもらっても増税でプラマイゼロ)は年収850万円から900万円くらいになります。これは、社会保険料控除(厚生年金、健康保険、雇用保険)や生命保険料控除を入れて計算してもほぼ同様の結果になりました。
正確な結果を求めるならば、「その個人」の実額でやるしかないのです。社会保険には、厚生年金や国民年金がありますし、未納の場合は社会保険控除は受けられません。扶養人数も違うし、所得控除はいろんなのがあるし、税額控除なんてのもある。所詮、精密な試算はできません。
また、収入ベースでなく、専門家の端くれとしては、「所得金額」や「課税所得」から計算したほうが説明しやすいです。そうはいっても、視聴者さんなどの多くは給与所得者でして、所得金額と収入金額を混同されても困りますし、所得金額を記載すると収入金額を逆算しないといけません。
限られた尺での表現は難しく、日テレさんとの打合せで極力恣意性のない試算方法でGOとなりました。
さて、このニュースがヤフーニュースに取り上げられますと、予想外に?バズりました。あの「ひろゆき」さんがツイートしてくれたこともあり、まぁ推定PVがハンパないことになってしまいました。
SNSでは、「試算した税理士バカ」みたいなメッセージがたくさんありまして、まぁ心苦しかったですわ(笑)いちおう、自分のホームページで既述の言い訳をした次第です。
5月31日のフジテレビさんでは、社会保険控除と生命保険料控除を入れて試算したものが取り上げられています。冒頭で申し上げましたとおり、ブレイクイーブンは日テレさんと同様です。そりゃそうだ、扶養控除の前と後で社保の金額は不変(社保の課金は収入金額を「標準報酬」としており、所得ではないのです)ですから、せいぜい税率が変わる所得帯に変化する場合くらいでしょう。
SNSに投稿された発言で勘違いが多かったのは、扶養控除は夫婦で受けられる、この表を世帯収入で判断してしまっている、こと。自分の所得税(社保も含みます)くらいは、自分で計算できないと政策批判ができないです。サラリーマンの年末調整制度を廃止して、全員確定申告する制度変更の方がよろしいかと。電子申告が普通にできるようになりましたし、確定申告のソフトウエアは便利で分かりやすいですので。
以下、記事の抜粋です。
日テレNEWS
政府は、児童手当の対象年齢を高校生相当にまで広げることを検討中だが、それにともなって扶養控除がなくなる可能性も浮上している。その場合、納める税金が増えるため、1万円の児童手当をもらっても、実質的には数千円のプラスにとどまったり、年収850万円以上の世帯では、むしろ今よりも負担が増えたりする可能性があることが、税理士の試算で明らかになった。 政府はこども関連予算倍増の一環として、児童手当の対象を高校生相当までに広げることを検討している。しかし、扶養控除廃止の可能性も出てきている。現在は、16歳から18歳の子どもがいる世帯の税負担を軽くするための扶養控除によって、所得を38万円少なく換算して、税金が課されているが、この控除をなくすとなると、納めるべき所得税や住民税が増える。つまり、仮に児童手当を月1万円受け取っても、税金が増えるため、「実質の手当額」は1万円よりも少なくなる可能性があるのだ。
プリエミネンス税務戦略事務所の佐藤弘幸税理士の試算によると、3人家族で父親が47歳、母親が45歳、高校生の子が17歳、母親と高校生が扶養されている年収400万円の世帯の場合、高校生の子の扶養控除がなくなると、年間で所得税と住民税が合計5万4900円増える。児童手当を月1万円、年間12万円受け取るとして、増えた税金を差し引くと、実質的な手当の額は、年6万5100円となり、ひと月あたりでみると5425円となる。 ■実質マイナスになるのは年収850万円あたりか 国税庁の2021年の調査では、日本の平均年収は443万円とされているが、厚労省が調査した2020年の子育て世帯の平均年収(雇用者所得)は695万1000円とされている。上記の3人家族で、この額に近い年収700万円で試算すると、税金が年間11万600円増え、児童手当を12万円受け取っても、実質の手当額は年9400円、ひと月あたりでは783円となる。 児童手当をもらっても、実質マイナス、つまり負担増となるのは、年収850万円あたりだ。850万円で試算すると、年間2600円とわずかにマイナス。 年収900万円で試算すると、税金が13万800円増えて、児童手当の12万円を上回ってしまい、年1万800円のマイナス、つまりひと月あたり900円の負担増となる。 (注:比較を容易にするため、今回は扶養控除、配偶者控除、基礎控除のみで試算。実際はその他の控除があるため、「手取額」は増える可能性があります。) こうした中、子育て支援の拡充を訴えてきた団体などからは、扶養控除の廃止に反対の声があがっている。 子育て支援拡充を目指す会の工藤健一代表は次のように話す。 「手当をする一方で、扶養控除をなくすということは、子育て世代の中での予算・財源の付け替えでしかなく、経済面で不安に思う方が、この制度があるから、こどもをもう1人産みたいと思えるかというと、まずそうはならない」「控除廃止により、課税所得が増えると、それらをもとに給付の内容が決まる他の制度にも影響を与えることがある。例えば高校無償化がそれにあたり、(無償化の)対象から外れてしまう方も当然出てくるはずで、そういった方々にとっては、控除により節税されていたはずの金額が増えるだけでなくて、高校無償化によって受けられていた給付の部分まで失ってしまう形になる」「子育ては長いスパンで続けるもので、ライフプランを組む人も多いが、制度が変わることを繰り返すと、こどもを持ちたい層が不安を感じ、あきらめる可能性もある」 ■扶養控除をめぐる経緯は…… 扶養控除をめぐる経緯をおさらいすると、民主党政権時代、「控除から手当へ」という方針のもと、所得制限のない「子ども手当」が設けられ、それと引き替えに、15歳までの子どもを育てる世帯の税金を軽くするための「年少扶養控除」が廃止された。しかし、実際の「子ども手当」は予定の半額となり、「年少扶養控除」の廃止で負担増となる世帯もあった。さらに、自民党は政権交代時に「年少扶養控除」復活を公約に掲げたものの、財政上の理由などから、復活は実現しないまま今にいたっている。つまり、現在、児童手当の対象となっている中学生以下には扶養控除がないのに、高校生は、児童手当と控除の「二重補助」になるとして、議論が出ているのだ。 所得のうち一定額を差し引いてから税金を算定するという控除。本人や家族の最低限の生活を維持するのに必要な所得には、税金を課さないという発想だという。日本大学の末冨芳教授は「控除は生存権を保障するためでもある。大人を扶養している場合にすら控除があり、高齢者が年金をもらっているから、その扶養控除をなくそうとはならないのに、こどもの場合だけ、手当をあげるから、控除は奪うという発想は異常とも言える」と扶養控除廃止に反対している。一度廃止されると、あと戻りが難しい扶養控除。少子化傾向に歯止めをかけようという、政府の「異次元の対策」の方針に合致しているのか、慎重な議論が求められる。