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DIAMOND online 2016.7.22投稿

・パナマ文書、タックスヘイブンとは何か?
・富裕層はどんな税金対策をしているか?
・世界ではどのような脱税行為が行われているか?

パナマ文書とは?
 各種報道によると、モサック・フォンセカ(パナマの法律事務所)によって業務上作成された文書で、1970年代から総数で1150万件の公的機関、企業及び個人富裕層の情報が書かれている。租税回避に関する文書が含まれているとのこと。法律事務所と顧客との間でやりとりされた、具体的かつ秘密性に富んだもので、本来は一般に公開されることのない文書である。

流出事件が起きる
 パナマ文書は2.6テラバイトに及ぶ膨大な機密文書で、匿名で2015年に南ドイツ新聞社に提供されたが、諸事情により国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に送られて、公にさらされることになった。ICIJに参加できるのは、各国1社から2社程度の報道機関で、日本では朝日新聞社と共同通信社がメンバー(右寄りの報道機関は参加不可のため)となっている。

 政治家や著名人などの情報があるとされ、この流出事件により租税回避などの「犯人探し」が世界中で行われる事になり、パナマ文書流出事件はワールドニュースとなった。

マスコミ報道から読み解けること
 報道には偏向が見受けられ、租税回避ばかりが目立った内容だったと思う。しかしながら、著者も某社からパナマ文書の原文などの提示を受け、租税回避の有無やスキームが目的とするところについてインタビューを受けたが、必ずしもそうではないのでは、というのが実直な感想だ。

 マスコミとしては、為政者や著名人が租税回避(脱税だけでなく合法、脱法的な節税を含む)をしていると報道すれば、媒体が売れるので煽るのは致し方ないとは思うが。

富裕層がタックスヘイブンを使う理由
 確かに、租税回避を目論む輩がいない訳ではないが、パナマ、その他のタックスヘイブンを利用するのには、いくつかの正当な理由がある。このこと抜きにして、租税回避だけがニュース先行するのは、仮に名前が明らかになった企業や個人に対して、不要な誹謗中傷の原因になりかねないので注意が必要である。タックスヘイブンを利用する主な目的は4つあり、順に紹介していく。

【目的1】事業のスピード化
 企業経営は、事業内容の選択・判断だけでなく実行までのスピードが重要である。何かのプロジェクトを立ち上げる場合、タックスヘイブンでの事業展開は、設立から銀行口座の開設、投資環境の条件などから考えると好立地といえる。弁護士や会計士などの専門家などが、第三国の利用を含めたワンストップでサポートできる体制にあるからだ。金融インフラに不安があるタックスヘイブンは少なくないが、他国の金融インフラを利用すれば問題はない。

【目的2】二重課税の回避
 先進国の法人税や所得税は、「全世界所得課税」を採用している。例えば、日本に本店所在地がある企業であれば、日本以外で稼得した所得(全世界所得)にも日本の法人税により申告しなければいけない。

 では、アメリカ支店で稼得した所得はどうなるか?アメリカに所得の源泉(販売施設、工場から売上が発生する場合など)があれば、アメリカで得た所得はアメリカで法人税を払えという事になる。ということは、アメリカ所得分については二重課税になってしまう。

 二重課税を防止するために、外国税額控除(アメリカで納税した分を日本の法人税から控除する)という制度や租税条約を整備しているわけだが、租税条約を結んでいない国などとは、依然として二重課税のリクスが残ることになる。

 そこで利用されるのがタックスヘイブンである。税金がゼロのタックスヘイブンであれば、子会社として事業展開してもリスクヘッジができる。そもそも二重課税になりえないからだ。

 ここで問題となるのが、タックスヘイブン子会社(TH会社)が稼得した所得の扱いである。税金というのは、その国が決める専権事項である。TH会社が税金ゼロでも、日本政府がTH会社に課税することはできない。ただ、手放しで放っておくと、本来は日本の所得になるものをTH会社に利益の付け替えができなくもない。無条件でTH会社の運営を認めると税収が減ることになる。

 そこで、事業実態がないTH会社などについて、タックスヘイブン税制というウルトラCの「武器」を持つことにしたわけだ。一定要件に該当しないTH会社の所得を日本居住者の所得に「プラス」して申告しなければいけない、ということになった。他国の納税者の所得を、日本居住者の所得として申告させるという意味で、ウルトラCといえる。

【目的3】ファンド利益分配の最大化
 ファンドをSPC(special purpose company、特別目的会社)で設立したとしよう。SPCの利益が設立国で課税されたら?あるいはSPCの分配金が、例えば配当所得として源泉徴収される国だったら?そうなると、当たり前だが「出資者の手取額」が少なくなる。TH会社には、このようなデメリットがない。

【目的4】匿名性の活用
 いわゆるノミニー制度の利用で匿名性が高まる。ノミニー制度とは、主として情報保護目的とした制度で、真実のオーナー情報を登記しないで第三者名義で法人登記ができる。株主や役員について、代理人名義で法人設立から運営までできる。公職にある者や富裕層など、世間に投資活動などをあまり知られたくない立場の人達には「持って来い」の制度なのである。

もちろん租税回避目的もある
 以上4つの目的の他に、言語道断ではあるが、タックスヘイブンを利用して租税回避しようという輩もいるであろう。タックスヘイブンはオフショア(外国)であること、先に述べたノミニー制度の悪用により、本国からは「見えにくい」存在となることができる。また、TH法人への直接の税務調査権限は、本国税務当局にはない。

 本国株主の法人税または所得税の税務調査の現場で、専門家や租税回避プロモーター、ファンドハウスからのステートメントなどから、TH会社の存在がバレるというのが一般的な調査発見事例である。

 今後は、タックスヘイブンとの租税条約の締結が進み、情報交換がさかんに行われるようであるから、租税回避なんて考えないほうがいいだろう。

国税最強部門、
「資料調査課」出身だから書けたこと
 私の本業は税理士です。顧客の税務相談、税務申告の代理、税務調査の立会などを生業としています。 そんな私が、なぜ本を書くようになったのか? 拙著「税金亡命」が誕生するまでのお話をさせてください。

 この「税金亡命」は日本と香港が舞台になっています。香港はアジアでトップクラスのタックスヘイブン地域です。日本居住者が、資産運用、資産回避、ときには脱税のために利用しているタックスヘイブンです。物語は租税回避から始まり、キャピタルフライト、そして脱税者自身までもフライトしてしまう「タックスエグザイル」に展開します。

 仕事で香港に行くことが多く、現地のファンドハウス、プライベートバンカー、公認会計士、保険会社、日本からアウトバウンドで香港に進出した経営者などと、数多くのミーティングを重ねてきました。租税スキームのリーガルチェックも受任してきましたが、クオリティの高いものばかりではなく、なかには、ただの脱税に近い残念なものが散見されました。

 本来の「租税回避スキーム」は、A国の税法で考え、B国の税法で考え、A国とB国との租税条約で考え(3か国以上に及ぶものもある)、そこにある「ループホール」を見つけて構築します。いわゆる、「国際二重非課税」となる利益移転を仕組む訳です。どこの国からも、あるいは高税率国から課税されない仕組みを作って、納税者の利益最大化を図るわけです。

 小説を読まれる方は、専門家だけではありません。したがいまして、高度な租税回避スキームを作品の中で展開しても、理解どころが一般専門書になりかねません。そこに注意して出来るだけ身近にありそうな、専門家以外でも想像しやすいような材料で書き上げました。「税金亡命」は国際税務事件などの入門書として興味をもっていただけたらと思います。

 「へぇ、そんなことがあるんだね」という本にしたかった。国税、富裕層(脱税者)、国税OB税理士という対立軸の中で、それぞれの思いが交錯し、グローバルな物語が描けたと思います。

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