「脱税なんてするもんじゃない」なぜか?
| 税務調査
脱税で国税から検察に告発された場合、人生で大切な「かなりの時間」と「多額の金」をドブに捨てることになります。
脱税事件の場合、通常の税務調査とは異質な展開となります。通常の調査とは、調査担当部署が所轄税務署、国税局調査部(法人のうち資本金1億円以上)もしくは国税局課税部のいずれかで、申告漏れがあっても「行政処分」である課税や加算税の賦課決定で済むものです。いわば、「お金で解決できる」レベルです。前科もつきません。
査察調査は、国税局査察部のマルサ(収税官吏)が行うもので、最終的に検察官に告発することを目的に調査展開していきます。つまり犯罪捜査に準ずる手続き(刑事訴訟法)になります。東京国税局の報道資料によると、令和2事務年度の告発率は約85%と非常に高く、さらに検察官に起訴された場合は100%が有罪というデータになっております。脱税額によっては初犯でも執行猶予がつかないことがあります。執行猶予がつかないと刑務所行きとなり、ビジネスマンから受刑者に転身となります。
有罪になった場合の脱税コストは、国税の追徴本税、重加算税、延滞税及び罰金(刑事)です。さらに地方税の本税、重加算金及び延滞金が加わります。脱税した利益が完全に吹っ飛ぶのが普通です。これらの追徴金と同等あるいはそれ以上になるのが、弁護士や税理士に支払う報酬です。
脱税事件に強い弁護士や税理士は限られております。極端な話、税金素人の専門家を代理人とした場合、クライアントが致命傷を受けることもありますので(笑)、慎重な選任をする必要があります。脱税事件に強い、精通した弁護士は少ないです。少ないということは、市場原理から弁護士のチャージが高額になることを意味します。初回の強制捜査から起訴までの間で数千万円の弁護士報酬というのも珍しいことではありません。
特にイニシャルコストといいますか、脱税嫌疑者として査察の調査を受け検察官に逮捕されると、拘置所、裁判所、地検に行き来する必要があり、少なくても3人以上のチームを構築することになります。チームには事実認定及び税法適用に精通した税理士も必要でしょう。脱税額よりも専門家報酬の方が高額になるのもこういった事情があるからです。地裁だけでなく高裁まで争うとなると、ひと財産吹っ飛びます。まだ勝てればマシなのですが・・・。
告発率85%、起訴された場合の有罪率100%というデータのなかで、告発されない、または、不起訴だった場合(いわゆる勝ちですね)、この場合も代理人を受任した専門家に「成果報酬」を支払うのが普通ですので、追徴はされないものの多額の専門家報酬を支払うことになります。成果報酬は、クライアントが受けた経済的利益の10%前後が相場でしょうか。それと、成果がなくても係争中の相談・資料作成・事実関係調査などにはタイムチャージがかかります。
皆さんのなかには、顧問税理士が脱税事件すべてを担当してくれると誤解されている方がいらっしゃるかもしれません。税理士が直接意見を言えるのは、国税局査察部の調査までです。あくまで「言える」だけであって、査察官が聞いてくれる保証はありません。正確に言えば聞いてくれることはあるものの、嫌疑者が有利になるような話は証拠にすらしません。さらに、犯則調査の手続きを定めた国税通則法(旧国税犯則取締法)には、査察官は出入り禁止措置ができることになってますから、顧客が嫌疑者になっても代理人は聴取には立会が出来ません。出入り禁止措置は、弁護士も同様の扱いになります。
いわばアウェーのなか、確実に査察調査に対応できる税理士の数は限られています。きちんとした対応をするには、査察の調査展開や査察官の思考回路を知る必要があるからです。内偵から着手までの経緯、何を証拠に立件しようとしているのか、取調べの質問・検査にブラフはないか、聴取のたびに問答を分析する必要があります。仮に告発された場合に備えて、査察調査のときから弁護士を加えたチームにするのが肝要です、詳細は省きますが、脱税事件は特殊ですので、税理士や弁護士の資格を持っているだけでは争えないのです。例えはイマイチかもしれませんが、戦争マニアとグリーンベレー戦士くらいの「実力差」が出る世界だと思っています。
査察調査の期間は平均で1年くらいでしょうか。私の経験では、長いもので2年数か月という案件もありました。皆さんは、長期間、不安な日々を過ごすことができますか?私が受任した事件では、嫌疑者は神経内科に通院したり、神社で厄払いしたり、毎日深酒したりと、ほとんどの方が心身にダメージを受けていました。毎日が不安で仕方がなく、早朝・深夜に私に電話をかけてくるクライアントも多かったです。
査察調査が終わると、85%は検察庁に告発されて、検察官の調査が始まります。検察官の取り調べでも「全否認(私は脱税していない)」を主張していると、一般的には逮捕案件になります。「完オチ(脱税を認める)」していれば在宅起訴が一般的でしょうか。起訴されたら100%有罪、取引先に上場会社があれば取引停止、メインバンクが都市銀行なら融資引き上げ、マスコミに取り上げられ世間体もあまりよくないでしょう。
小学生が習う算数で、10-1=9が解答になりますが、ビジネスの世界では、解答がゼロになる事が少なくありません。信用がないと全うできないビジンスが多いからです。脱税してしまった人から必ず聞くセリフは、「何でこんなことをしてしまったのだろう」です。法人の場合、100の利益があったら国税・地方税を含めた実効税率は35%前後ですので、手元には65%が残って事業再投資、役員・使用人給与、配当、蓄財にまわせます。刑事事件になると、利益が吹っ飛んで、マスコミに顔がさらされ、つらい取り調べを数年に渡り受けることになります。
だから、「脱税なんてするもんじゃない」なのです!
しかしながら、万が一、魔が差して脱税してしまったという人がいましたら、大至急(時間との勝負です!)その道の専門家に相談して善処してください!