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DIAMOND online 2018.3.13投稿

仮想通貨の取引実態と、当局の「射程距離」
所得税の確定申告シーズンということもあり、毎日のように仮想通貨にまつわる税金話をネット上で目にする。

 ほとんど同じ話で、「個人の税金計算は、雑所得(総合課税)で累進課税される」といった内容だ。ここでは、巷で取り上げられている「税金計算」の話ではなく、「仮想通貨の取引実態や税金滞納した場合にどうなるか」というテーマで話を進める。

 そもそもだが、仮想通貨は交換業者(いわゆる取引所・販売所を指す)を通さなくても相対取引ができる。売却または他の仮想通貨と交換する相手を見つけるのが難しい場合に、交換業者を利用しているだけだ。

 仮想通貨を保有する売却希望者がいるとする。買入希望者がいてお金があれば目の前で取引成立となる。仮想通貨は決済と同時に相手のウォーレットに移管するだけだ。マフィア映画の麻薬取引シーンを思い出せばわかりやすいと思う。

 仮想通貨は取引履歴が追跡できるというものの、所有者(占有者)の個人特定、さらには課税のための帰属者(真の利益享受者)情報まで得ることは非常に困難だ。理論的には「可能かもしれない」が、実際には時効の壁(最長で7年)があり、現時点の情勢では、真の帰属者に課税するのは技術的に無理だと思う。

 1枚の1万円札がある。札の右下に記号があり印刷には特殊な施しがあり真贋の判断に使える。本物の1万円札なのだけれど、「誰のサイフ」に入っているかが探しにくい。さらには「サイフに入っている1万円札」がサイフの持ち主のお金なのかどうかもわかりにくい。

 ただ、国内の交換業者を利用した取引については、交換業者の資料源開発調査(情報収集のための先行調査)により「取引名義人」と「取引履歴」だけは把握できる。入出金の状況から表面的な取引だけは把握できるものの、この場合でも、真の帰属者を「割る」には税務当局による実地調査で芋づる式に調査展開しないと解明できない。

 また、MLM商法による資金移動やファンド形式による資金シフトでは困難を極めるだろう。なぜなら、MLM商法では、交換業者に送金等する際に1名の「交換業者の登録者名義」で行うのが普通なので、ぶら下がりの会員がいる。当局による交換所の取引情報だけでは適正な課税ができないので、登録者の銀行預金口座を調査することになる。

 登録者の預金口座には数百人からの送金があり、一定金額に達した場合などのルールに基づいて登録者名義預金から交換所の口座に送金したことが判明するだろう。しかしこれでは終わらない。さらに下部レベルに属する者をカウントすると、膨大な仮想通貨の「運用者」になる。ファンドもMLM同様、運用者の解明には時間がかかる。ほかにもNK(任意組合)、TK(匿名組合)などの形式が考えられる。

仮想通貨の「所得計算」の難しさ
 さらに課題がある。仮想通貨の所得計算は、仮想通貨の売却、他の通貨との交換、コインによる商品購入の、それぞれの時価が「収入」となる。所得計算には「仕入」の計算が必要になる。基本は移動平均法、総平均法でもOKだが、取引履歴が多い人は大変な作業になる。計算したことがある人なら大変さがわかるが、仮に税務調査で当局が計算することになった場合、膨大な調査日数を要するだろう。

 国外の交換業者を利用している人はどうか。まず、取引自体が把握できない。治外法権なので情報収集すらできない。個別案件でターゲットを絞り、ピンポイントで照会するくらいは可能だが……。取引の資金が日本の金融機関を経由したとしても、実地調査で調査対象者に接触しない限り当局は把握できないだろう。

 CRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)をご存じだろうか。預金口座などの個人情報を、国と国とで交換する制度で、100ヵ国以上が参加。日本も参加しており2018年に適用国となっている。制度導入の目的は、個人の国外資産を把握して適正な課税を行うために他ならない。

 現在のところ、仮想通貨はCRSの報告対象となっていない。したがって、某国の交換業者との取引情報が日本に一方的に入ってくることはない(ピンポイントでの情報入手はアリ)。将来、国外の交換業者で取引している者の情報を得ることができたとして、帰属を割るという作業が待っており、適正な課税をすることは難しい。

 国外でプリペイドSIMを購入すれば、端末などのノードのIPアドレスくらいしか特定できないだろうし、仮名・借名でプリペイドSIMを購入して仮想通貨を移管したら、取引した人物を特定するのは誰にも出来ないだろう。

 交換業者が取扱う仮想通貨は、「上場通貨」などと呼ばれているが、上場前のICOでトークンを発行するケースがある。トークンというのは、私募債のようなクローズな仮想通貨のことだ。ホワイトペーパーと呼ばれる事業目論見書のようなものを提示して、プロジェクトに必要な資金を集めるために、発行するトークンと引き換えにビットコインやイーサリアムのような「上場」しているコインを取得。法定通貨に換金して事業を遂行することとしている。

 トークンは株主権利を行使できないので株式ではないし、返還請求できるものではないので貸付金などの債権でもない。時価だってあってないようなものだ。というか、トークン発行後の時価は上場するまでは誰もわからない。目的によっては時価操作すら可能である。

 上場できそうな世界の「ICO」を狙って、「仮想通貨→トークンに交換→上場→仮想通貨に交換→トークンに交換→仮想通貨に交換」といったようなループにより、「スーパー億り人」が誕生した。まさに錬金術といった具合だ。

 仮想通貨保有で数十億以上という人たちは、世界のICOを渡り歩いてきた人たちだ。

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