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DIAMOND online 2018.2.11寄稿

金塊密輸で大儲け!カギは消費税
金塊を巡る事件が相次いで起きている。

2016年の7月、博多駅前で白昼堂々、約7億円相当の金塊が警察官を装った男たちに盗まれた。

 2017年4月、東京銀座の路上で、自営業の男性から金塊の売却代金約7200万円が入ったバッグを奪ったとして、職業不詳の男2人と男子高校生1人が強盗容疑で警視庁に逮捕された。

 2017年6月、約1億3000万円相当の金塊約30キロを服の中に隠して韓国から密輸したとして、愛知県岡崎市などに住む40~70代の主婦ら女5人が逮捕された。5人は2016年12月、金塊をタンクトップの内側に縫い付けたポケットに入れるなどして隠し、韓国・仁川空港から中部国際空港に密輸していた。密輸を手助けした運び屋と見られている。

 事件の背景には、“ヤミの錬金術”がある。その手口を見てみよう。金塊はなぜ日本に持ち込まれるのか。みなさんはご存じだろうか?

 その理由は日本の「消費税」にある。

 消費税が平成元年に導入されて早いもので30年近くがたつ。当初の税率は3%。その後5%、8%、そして2019年10月からは10%になる予定だ。税関での摘発件数は2014年に急増しているが、同年は税率が8%になった年であり、税率アップと密輸の増加は密接に関係している。

 消費税の課税対象は、商品の販売、資産の貸し付け、サービスの提供などだ。国内の取引だけでなく「輸入(個人輸入を含む)」も含まれている。金塊も例外ではなく、購入時にはもちろん消費税がとられる。日本の消費税のように、諸外国にも似たような付加価値税や小売税がある。

 ただし、すべての国に消費税のような販売金額に課税する税金が導入されているわけではない。つまり、金塊を買っても、国・地域によっては消費税が課税されないことがある。

「香港→韓国→日本」のルートで
持ち込まれる
 インゴットに信用があり、金融インフラが整っていて、治安が悪くなく、そして消費税のない国・地域の代表例が「香港」である。日本では消費税8%がかかるのに、香港ではかからない。この点に着目したのが、密輸でひと儲けしてやろうという人たちだ。

 密輸スキームは割とシンプルである。消費税が課税されない国・地域で金塊を買って、消費税が課税される日本で売りさばくのだ。金塊のレートはグローバルに適用されるので、香港と日本で仮に同じレートでさばくことができれば、ザックリ8%(消費税分)の粗利益である。

 金塊取引は税関をスルーできるかが勝負の肝となる。日本に持ち込むことができさえすれば、あとは表の市場で取引するだけだ。金塊取引は密輸さえうまくいけば、「うまみのある取引」である。

 具体的には、密輸業者Aが香港で1億円分の金塊を購入する。次にAは、香港から直接に日本へ行くと税関に怪しまれるため、韓国経由で観光客になりすまして日本に持ち込む。韓国経由では、韓国の空港乗り換えエリアで、韓国発→日本着のフライトに搭乗する別の運び屋Bに金塊を「引き継ぐ」ケースがほとんどだ。下着に隠すという初歩的な隠蔽から、肛門から腸に押し込むというプロの手口までさまざまだが、日本の空港にある税関をパスするのは難しくなくなかったようだ。

 税関をパスした後、運び屋Bから密輸業者Aの仲間が金塊を受け取って仕事が完了したことになる。「難しくなかった」と書いたのは、密輸事件が多くなり報道も目立つようになり、税関が取り締まりを強化したためである。今はどこの空港に行っても金塊密輸禁止のポスターが目につくようになった。

 日本への密輸が成功した後、Aは日本の金買い取り業者Cに消費税を含めた1億800万円で売却する。このときAの利益800万円が確定する。これが密輸スキーム「1クール」となる。これを繰り返すことによって、不正な利益を積み増ししていくわけである。

 買い取り業者Cとグルになれば、Cは正規に輸出できる(輸出は消費税免税)し、CがAから買い取った際の消費税は、Cの消費税確定申告で税務署から取り戻すことができるので、自分の腹を痛めることはない。リスクは税関で摘発されること。しかし、裁判での判決が出るまでは金塊没収はされないので、仮に税関でバレても税金さえ払えば、金塊を手元に取り戻せるケースが多い。

金塊密輸業者の「声」
「売上総利益」は8%だが、経費はいくらかかるだろうか。日本への持ち込みには、LCCなど格安航空チケットを利用する。香港→韓国、韓国→日本ならば、バーゲンセールで片道1万円を切るなど格安だ。

 運び屋に主婦を利用していた事件があり、この場合には旅費交通費を負担する対価として運び屋の役割を負わせていたようだ。運び屋になる主婦からしても、薬物などとは違い金塊なので罪悪感が薄かったのかもしれない。金塊密輸業者の仲間内では、「福岡や沖縄の税関の検査は緩い」というのが定評だったようだ。

 韓国経由が多かったと書いてきたが、日本の「国際空港の税関」で密輸が相次いで摘発されてきたので、リスクを回避する方法として仰天手口を考えた人たちがいる。それが「内変機」を利用したスキームである。内変機とは、国際線で日本に到着後、「同じ飛行機」で国内線として出発するフライトのことを指す。

 1月下旬にニュースとしてリリースされたが、舞台は中部国際空港セントレア。密輸犯グループは、金塊をシンガポールで購入後、台湾の空港に到着。台湾からセントレア空港に到着。搭乗した飛行機の「便器の裏側」に金塊の入ったビニール袋をテープで貼りつけて降機。仲間が同じ飛行機の国内線で搭乗、羽田空港で降機する予定だった。

 運が悪かったのか税関職員が有能だったのか。ニュースになったケースでは便所の検査で発覚し、搭乗人のバッグから便器裏に貼り付けてあったものと同じテープが発見されたとのこと。バレるまでの間、数回は成功していたとの供述だった。主犯格の外国人が、愛知県で自動車の輸出業会社を経営していたとのことなので、これまでのフライト経験から、このスキームを考え出すことができたのではないか。

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