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DIAMOND online 2018.2.7投稿

日本の税務職員は、
世界的にも優秀?
 前回の記事では、タックスヘイブン狩りの実情を説明するため租税条約の話をした。さて、租税条約があれば、二重課税にしても脱税防止にしても、問題の一件落着!なのかと思いたくなるが、そんなに甘くはないと思う。制度があっても執行が出来なければ、絵に描いた餅であり意味がない。

(1)条約相手国の調査能力
 日本は各種インフラが整っているし、税務職員の能力も高い(少なくてもアジアの中では)と言ってもいいと思う。ところが、開発途上国などはインフラが乏しいだけでなく、税務執行がお世辞にもいいとは言えない。

 国・地域によっては、税務調査は納税者への臨場ではなく、呼び出し方式で書類のやり取りだけで終了することがある。条約に基づいて情報交換制度の活用しようとしても、果たしてまともな情報収取ができるのか、まともに機能するのか疑問である。

(2)国・地域の事情
 国・地域によっては、ある情報を開示してしまうと、自国の産業に悪影響が出る場合がある。特に金融立国がそうである。「金が自国から逃げる」のを承知で、重要な情報を相手国に安々と提供してしまうのか?疑問である。

 また、公務員のモラルにも触れておかなくてはならない。日本から情報提供依頼を受けた国の税務職員が、日本に情報提供しない見返りに賄賂を受け取ったらどうなるか?

 アジアでビジネスをしたことがある人なら容易に想像できると思うが、そういった国・地域はまだまだ存在する。

 ミャンマーでの話。日系企業の法人税申告をするために税務署に行った。窓口横のテーブルで申告書を提出する際に、税務署員と面白い話になった。

 税務署員「これは真実の申告か?」
 納税者「はい(過少申告を疑っているのか?)」
 税務署員「こんなに儲かるはずがない」
 納税者「いや、事実ですから(何かおかしいな)」
 税務署員「本当ならば、申告は四分の一でいいから、半分俺にくれ」
 納税者「えーっ!(そんなアホな)」

 これは本当の話である。開発途上国ではミャンマーに限らず、税務署員の能力や質に問題が少なくない。

税務署の調査能力なんてたかが知れている、という現地の風評があり、そもそも「まともに申告していない」ことが多い。東南アジアの輸入関税がやたらと高いのは、自国産業を保護するという目的だが、うがった見方をすると自国内での税徴収がまともに出来ないから水際でしっかり徴税しようというのも、主たる理由なのではないかと思ったりする。

 日本でも昔はこんな話があった。農協職員の指導により農家の過少申告が一斉に行われた事件である。そのときの農協職員のセリフが笑える。「Cさん、そんなに大きな(正しい)金額で申告したら、まわりの人たちが迷惑でしょ」。

「徴収」のための
租税条約とは?
 前述してきたのは、課税するための租税条約である。ところが、税収というのは「債権回収」してナンボのものである。債権回収すなわち「徴収」するための租税条約が、「税務行政執行共助条約」である。

 なぜ、徴収が問題になるのか?国税が課税しました。納税者が税金を払わなかったので滞納となりました。ならば、国税徴収法という強権で差押えすればいいじゃないか、となるわけだが、実は差押えできるのは「国内財産」だけである。オフショア財産はアンタッチャブルとなる。

 なので、日本を脱税して財産を海外にキャピタル・フライトさせれば、国税は徴収できないことになる。この条約に加盟すれば、制度の建前では締結国間で徴税事務を連携して行うことができる。日本が加盟したのは2011年と意外と遅かった。

 締結国(多数国間条約)は日本を除いて60ヵ国、うち日本と二国間条約を締結していない国は21ヵ国ある。アジアでは、日本の「手の届かない国」はまだまだある。タックヘイブンでは、香港、マカオがあげられる。「お国の事情」だろうか。ちなみにシンガポールは条約締結しているが、香港との立ち位置の違いがあるのか?

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)
プロジェクトとは?
 多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって、税負担を軽減している問題「税源浸食と利益移転」について、日本も参画している。二重課税の問題ではなく、「ループホール」(税法の抜け穴)を悪用した、いうならば「国際間二重非課税」の取引を防止しようというプロジェクトである。租税回避プロモーターはBEPSの動向を注意深く見ているに違いない。

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